2013年5月6日月曜日

漱石「幻影の盾」と「一夜」


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 9 月 4 日(火)晴れ[つづき]

 朝、Jack と登校して定時制職員室の前を通るとき、いやに馴れ馴れしく「お早う」を返された NSD 先生に(Teinō という大変なあだ名がついている)運搬作業をさせられた。棺桶型の鍵のかかった箱だ。試験問題を刷った紙が入っているそうだ。Jack はそれを運びながら、なぜ自分の目が木を透視出来て紙を透視出来ない視力を持たないのだろうと、悔しがった。
 社会の試験中、IT 先生と YMG 先生が一緒に教室から教室へと質問を受けに回られた。われわれのホーム(今回の一斉試験は各ホームで実施される)では、ぐるっと机の間を回ってから、口を歪めて発声する特徴のある IT 先生が、「簡単な問題ばかりですから、出来なかったら落第ですよ。しかし、これが出来たら、金沢大学へ入れますね」と、あとの方は YMG 先生に向かっていわれる。すると、 YMG 先生は、太い身体を腹の辺りから前屈させながら、「そうですね」と応じられる。エンタツとアチャコのコンビの変型だ。

 「幻影の盾」。夢の圧縮、それを一時に経験したヰリアム、そのために長い辛抱と煩悶が必要だった。それは、どこで経験しても、縮めても、細長く伸ばしても、変わりはないということ。
 「一夜」。空間に広がる一瞬、——絵画。その一夜を描かれている二人の男と一人の女。そして彼ら自身も頭や胸に絵を描いている。その一夜は、全生涯の時間と空間の最小単位同士の最小公倍数。それだけでも一枚の絵。その中には、一生のすべてを知るに必要なものが全部、約数を取られた形で入っている。

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