2013年5月3日金曜日

「倫敦塔」などを読む


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 9 月 2 日(日)晴れ

 祖父の教え子の HMZ 氏という人が朝っぱらから来た。大阪から汽車に乗り、けさの三時に金沢へ着いたそうだ。氏が祖父と話し始めた頃には、ぼくはすぐ横の寝床の中で、目を開けてはいたが、まだ横になっていた。祖父は満鉄総裁だった早川千吉郎(注 1)という人がいかに立派な人物だったかを語った。食事を終わって、ぼくが四分の一坪の部屋へ行っている間に、氏はもういなかった。

 舌が口の中で飛びはねる。ある調子を持って動き回る。考えたことが、あたかもその調子に初めからついている歌詞のように付きまとう。外界に空気振動こそ及ぼさないが、そこに歌が形成される。

 「倫敦塔」。袋に押し込められている歴史。思索の針をその袋に突き刺すと、針の先にいろいろなものがわずかずつ付いてくる。それを集めて作った空想。それをふたたび包む袋は、倫敦に多い霧のようなもの。
 「カーライル博物館」。緑に囲まれ、空を見上げ、下界の騒音を忌み嫌った人、頭脳から自分の好むもの、想像し得る最良のもの、美しいものを押し出し、ひねり出して固め上げた人、カーライル。その人の追想。ただ外部から追想すれば、夢のような、遠くに望まれる崖のようなものだが、その底には一つの生命の真剣な呼吸と活動がある。そこまで、この文は追想している。
 「幻影の盾」(あとで書く。)(注 2)[つづく]

引用時の注
  1. 早川千吉郎 (1863–1922) は、石川県金沢市出身の、明治・大正期の官僚、実業家、政治家。1921年、南満洲鉄道株式会社社長となり、在職中の翌年に死去。(ウィキペディアの記述を参照した。)
  2. 図書館から借りた漱石全集の一冊を読んで、感想をメモしたのである。

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