2013年5月20日月曜日

「バンビみたいや!」


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 9 月 16 日(日)曇り時々雨[つづき]

 また、目と目がまともにぶつかった。わびしげな目——。「白」はそこで引き離された。水たまりをよけながら、尾行者——もう尾行者ではなくて、従者だ——の先に立って行くと、Pan が自転車で来るのに出会ったが、彼はぼくよりもぼくの従者の方を見ていたようだった。
 気持悪くもあった。電車の見える方へ戻りつつあった。一匹の動物を連れていることは誇らしくもあった。従者が遅れてしまって、ついて来ているのかどうか分らないときもあったが、後ろを向いて実際の姿を見るのが恐ろしく思われて、目を横へやって、店々ガラス戸の像で見るように努めた。高砂屋の角を、従者はぼくの足にまつわりつきながら、ぼくとともに曲がった。
 幼児の群れに行き会った。彼らの声によって、ぼくがまだ従者を従えていることが分った。「あの子犬、バンビみたいや!」と言う声があった。バンビ! もっともっと、ついて来い。でも、何を求めて、どこまで来る気だろう。どうかしている。狂犬じゃないかな?
 誰かに会ったら、何といわれるだろう。「イヌを連れて散歩かい? 可愛らしいね。」「イヌに追われて来たのさ。何とかしなくちゃならない。」——これでは面白くない。「うん、立派だろう。バンビのようだろう。つやつやしていて、ころころしていて…。」——京都の伯父の家のコロちゃんかもしれない。——「何だってこんなところまで来たんだい?」——いつの間にかイヌと話している。——どこの野良犬だか分ったものじゃない。イヌのルンペンだ。のらくろ二世かな? いやいや、Jack の隣の Y 家からついて来たのかもしれない。あんなところの坊ちゃんイヌを遠くまで連れて来て、迷子にさせては悪い。——呪われているようだ。今夜はうちの周りで吠え続けるかもしれない。——不安がつのる…。
 Octo の家へ逃げ込んで何とかしようと思ったが、彼は野球に出かけたということだ。不思議な散歩を続けなければならない。キチョッ、キチョッ、キチョッ、キチョッという足音は、直ぐ後ろに続く。道路の右へ行き左へ行きして、バンビは長い距離を歩いている。ぼくの持っている傘の先に餌でもついているかのように、一定の時間をおく毎に、すり寄って来る。——上菊橋へ出た。(続きは明日書く。)

0 件のコメント:

コメントを投稿