2013年10月15日火曜日

日頃の異常な精神の現れの一部


友人たちとの文通記録

Sam から Ted へ: 1959 年 10 月 10 日[つづき]

 時計は午前二時を指している。表通りの騒音もようやくおさまって、風の音と、ときどき通る車の排気音や遠い汽笛の音が聞こえてくる。ここ数日、昼と夜をとり違えたような生活をしており、それが焦慮感となって、普通以上に不安な気持を加えていたが、いま初めて、落ち着いた気分になる。まったく、君の手紙によるところ大である。昼は働き、夜は寝なければならないという固定的な概念、一つの習慣としてきたものが、絶対的なものではない、ということを体得しただけでも素晴らしい。もちろん、不規則で不健康ではあるが、夜は寝るためにだけあるのではないということを再発見したことに意義がある。歴史は、夜作られなければならないのだ。
 取り止めのないことを書いたが、幾分異常な精神が作用している、あるいは、日頃の異常な精神の現れの一部としておこう。
 夏休みの旅の締めくくりを同封しておくから、読んでもらおう。楽しい旅だったと思う。「おおジグリー」
(注 1)も「エルベ川」(注 2)も「若者よ」(注 3)も正しく歌えるようになったが、「先生」には聞いてもらう機会がまだない。「ユーカリ」(注 4)へも、君がいない間は、まず訪れることがないように思う。明日から関東へ旅に出る。
 いろいろな意味でありがとう。

 一〇月一〇日
S 拝
達夫君
[完]
引用時の注
  1. こちらにある「ジグリー」のことだろう。当時私は歌を歌うことが好きでなく、あとにある「先生」こと、われわれと中学同期の女性(高校時代の日記に Minnie のニックネームで登場)の指導をちゃんと受けていなかったばかりでなく、指導があったことさえも覚えていなかった。「先生」が列車の中で「Oh My Darling Clementine(いとしのクレメンタイン)」こちらでは、これが主題歌であった映画『荒野の決闘』のシーンをバックに歌われている。日本版歌詞「雪山讃歌」こちらに両歌詞が掲載・比較されている)を英語で口ずさんでいた記憶はあるのだが…。
  2. こちらの YouTube 動画で聞ける。
  3. この歌は知っている。こちらに YouTube 動画が、こちらに歌詞と楽譜がある。
  4. 私の大連時代の幼友だち姉妹の姉のほうが、彼女の夫と一緒に金沢の中心街・香林坊の近くで、この年の夏に開店し、しばらく続けていたスタンドバー。私が夏休みの帰省中に Sam を誘って一度訪れた。

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