2013年4月25日木曜日

夢と『アリス物語』


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 8 月 28 日(火)晴れ

 『東京キッド』の中の美空ひばりを真似て、よい夢を見ようと、枕をなで回してからポンポンと叩いて寝た。Jack の真似をして(double 真似!)何かを期待した昨夜は、風の強い夜(こう書いているいまも、相当強い風がある)のような雰囲気の夢を見てしまった。おまけに、どんな理由があってそんなものが出て来るのか知らないが、この頃ときどき見て大いに神経を使う遅刻の夢もあとにくっついていた。遅刻、その夢の中で、ぼくはローラースケートで滑るように足を忙しく動かす。それが何度も、無為同然の結果になる。忘れ物! 忘れ物! 忘れ物! こんなにトンマなぼくは夢の他にどこにいるだろう! それなのに、夢の中のぼくは、それをぼくと信じている。幼い頃にはむしろ、「これは夢だ」と断定して、どんな恐怖の前にも平然としていたこともあったのに——。時計の針、涙! まだ、何か足りない!
 こんなことを書いていたら、『アリス物語』
(注 1)を思い出した。小学生のときに読んだのだけれども、不思議に深い印象と未だに解けない謎のようなものを、それは残している。大きくなる。小さくなる。涙。キノコ。ウサギ。チョッキ。ペンキを塗られているバラの花。時計。ビスケット。トランプのクイーン。玉突き。舞踏。ネコ!——これを読んだときには、十分に理解出来なかったのが、そのまま夢のような印象になったのかもしれない。いや、それは実際、ぼくの夢に似たものだったのかもしれない。(つづく)
引用時の注
  1. 原題 "Alice's Adventures in Wonderland"。『ウィキペディア』の「不思議の国のアリス」によれば、『アリス物語』の題名での訳は、「須磨子」名義による永代静雄訳(改作に近い翻案、1912 年)と、芥川龍之介・菊池寛共訳(1927 年)の 2 種類があるということであり、私が読んだのは後者と思われる。高校 2 年のとき、英語の時間に "Alice's Adventures in Wonderland" の一部分を習うことになり、その感想文「不思議の国のアリス」を生徒会誌に載せた。

0 件のコメント:

コメントを投稿