2013年4月13日土曜日

花火の宵


高校(1 年生)時代の交換日記から

Sam: 1951 年 8 月 18 日(土)快晴

 自転車のペダルを踏みながら、ぼくは考えている。入浴しているときとか、こんなとき、いろいろなことを、いろいろな場合を考える。それに最も適した状態なのかもしれない。自転車のスピードはあまり速くない。速過ぎては、考える余裕を与えない。いまの場合、考える余裕を与えないほうがよいかもしれない。しかし、それだけのスピードを出せるだけの状態に至っていない。
 「馬鹿だ、馬鹿だ。何て馬鹿なんだろう。」しばらく考えてからそれを打ち消した。何のために自転車に乗り、何のためにどこへ行こうとしているのか、それさえ分らなくなった。
 得たものは、——「それは、きっと二週間ばかりするうちに何もかもなくなってしまうだろう」——不考者だ! 不孝者だ! 不幸者だ!

 花火が打ち上げられている。たまらない! 自転車だ。それで公園まで行ってみよう。数分おきぐらいに、辺りの空気を震わせて青空に爆裂する。そのたびに、ダルマが落ちて来たり、ビラが風に流されて行ったりする。夕食のため一応家に帰り、六時頃再び出かけた。ビラを大奮闘の末やっと二枚ばかり拾ったが、「26.9.22 抽籤 第 7 回ダイヤモンド定期預金…」、「今夏のファッションモードは皆様のマルエキ…」という馬鹿げた広告宣伝ビラばかりしか取れなかった。あっちあっち、こっちこっちと飛び回っている間に、辺りが暗くなって来て、やがて夕やみが迫って来た。

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