高校(1 年生)時代の交換日記から
Ted: 1951 年 8 月 12 日(日)晴れ(つづき)
(9 日のこと。昨日書いた続き)歩き続けるうちに電車道へ出ることが出来た。岡崎神社を見てから、電車の旅に変えた。伯父の家へ帰りついたのは、夕飯に適当な頃だった。庭の草取りに来た老婦人がまだ働いていた。伯母はホースを引き伸ばして、老婦人に放水の仕方を説明した。老婦人は庭に雨を降らせ、飛び石の上の砂を吹き飛ばし、樹木に生気を与え、涼しさを演出した。伯父が会社から帰ったが、客と縁側で話し続けたので、ぼくは一人先に夕食と入浴を済ませた。風呂から上がると、ようやく伯父夫妻が食卓に向うところだった。扇風機。麦茶。それに似てスピリットのある(という表現は『サンデー毎日』のクロスワードパズルにあったもの)ビール。泡。洗面器を必要としない洗面所。木の香り。大きなガラスの入った縁側の戸。青く涼しい感じのカーテン。犬のコロとエルのじゃれ合う声。伯父の、首を右へ傾けて回しながら笑う笑い。伯母の白く塗った顔。暑くて眠り難い夜——。
(10 日のこと)金沢着午後八時二十四分。京都と比べるから、小さいという感じ。電車内の窓間の柱毎にある小さな鏡に写る自分の顔は、疲れたようには見えない。家。静寂。暑さの中でいつもとは頭の位置を逆にして寝ていた祖父。
(11 日のこと)沢山たまっていた新聞を、手に取った次の瞬間には折りたたんでいるような速さで読む。疲れていないと思っても、やはり疲れている。母へ極めて少量の土産話——。
午後 Jack。公共職業安定所から通知が来て Neg に譲った Sam のこと、Twelve が中耳炎ということ、肺が悪くなり三十二米しか投げられなかった OKB 君のこと、Lotus が映画を見てばかりいること、などを話してくれる。さらに、解析の連立方程式のこと、地鳴欄に掲載の Hotten の「感心な乗務員」のこと。台所町にヨウコ先生を訪ねるため出発。家はすぐに分る。赤ちゃんを抱いて出て来られた先生に、玄関で質問。行列式。黙考。顔、足、胸に目が行く。回答は明日の午後一時〜二時に学校でということに。Jack は先生に宿題を出して得意顔。余談に「順列組み合わせ」nPr のこと。さらに先生方の講習の話。ヨウコ先生「一級免許で校長になれるんや。」Jack「一級やと校長か。」ヨウコ先生「"一級が校長" でなしに、"一級やと校長になれる" んや。」必要条件と十分条件を持ち出されるかと思ったが、出なかった。
帰路、後ろから紫中の Zu 先生。視力 0.1 の Jack が先に気づく。投げつけるような調子の先生の質問はお決まりのもの。先生はいま芳斉町小学校、宿直に行く、音楽・図工以外は何でも教えとる、と。
晩、Y 伯母が来る。伯父の家の扇風機やガス風呂、J 伯母に連れて行って貰った大阪見物で、エレベーターで上がった大阪城天守閣、大阪の首つり街道などの話を聞かせる。(つづく)
Ted: 1951 年 8 月 12 日(日)晴れ(つづき)
(9 日のこと。昨日書いた続き)歩き続けるうちに電車道へ出ることが出来た。岡崎神社を見てから、電車の旅に変えた。伯父の家へ帰りついたのは、夕飯に適当な頃だった。庭の草取りに来た老婦人がまだ働いていた。伯母はホースを引き伸ばして、老婦人に放水の仕方を説明した。老婦人は庭に雨を降らせ、飛び石の上の砂を吹き飛ばし、樹木に生気を与え、涼しさを演出した。伯父が会社から帰ったが、客と縁側で話し続けたので、ぼくは一人先に夕食と入浴を済ませた。風呂から上がると、ようやく伯父夫妻が食卓に向うところだった。扇風機。麦茶。それに似てスピリットのある(という表現は『サンデー毎日』のクロスワードパズルにあったもの)ビール。泡。洗面器を必要としない洗面所。木の香り。大きなガラスの入った縁側の戸。青く涼しい感じのカーテン。犬のコロとエルのじゃれ合う声。伯父の、首を右へ傾けて回しながら笑う笑い。伯母の白く塗った顔。暑くて眠り難い夜——。
(10 日のこと)金沢着午後八時二十四分。京都と比べるから、小さいという感じ。電車内の窓間の柱毎にある小さな鏡に写る自分の顔は、疲れたようには見えない。家。静寂。暑さの中でいつもとは頭の位置を逆にして寝ていた祖父。
(11 日のこと)沢山たまっていた新聞を、手に取った次の瞬間には折りたたんでいるような速さで読む。疲れていないと思っても、やはり疲れている。母へ極めて少量の土産話——。
午後 Jack。公共職業安定所から通知が来て Neg に譲った Sam のこと、Twelve が中耳炎ということ、肺が悪くなり三十二米しか投げられなかった OKB 君のこと、Lotus が映画を見てばかりいること、などを話してくれる。さらに、解析の連立方程式のこと、地鳴欄に掲載の Hotten の「感心な乗務員」のこと。台所町にヨウコ先生を訪ねるため出発。家はすぐに分る。赤ちゃんを抱いて出て来られた先生に、玄関で質問。行列式。黙考。顔、足、胸に目が行く。回答は明日の午後一時〜二時に学校でということに。Jack は先生に宿題を出して得意顔。余談に「順列組み合わせ」nPr のこと。さらに先生方の講習の話。ヨウコ先生「一級免許で校長になれるんや。」Jack「一級やと校長か。」ヨウコ先生「"一級が校長" でなしに、"一級やと校長になれる" んや。」必要条件と十分条件を持ち出されるかと思ったが、出なかった。
帰路、後ろから紫中の Zu 先生。視力 0.1 の Jack が先に気づく。投げつけるような調子の先生の質問はお決まりのもの。先生はいま芳斉町小学校、宿直に行く、音楽・図工以外は何でも教えとる、と。
晩、Y 伯母が来る。伯父の家の扇風機やガス風呂、J 伯母に連れて行って貰った大阪見物で、エレベーターで上がった大阪城天守閣、大阪の首つり街道などの話を聞かせる。(つづく)
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