2013年3月5日火曜日

無行為への後悔


高校(1 年生)時代の交換日記から

Sam: 1951 年 7 月 24 日(火)晴れ

 ぼくはまだまだ主観的で、思考の範囲が狭いね。とくに、とっさの判断を要するときは、ひじょうに妥協的で、意気地がない。Ted! 『五人兄妹』の映画
(注 1)を見たかい*。その劇場で感じたのだ。いや、映画を見て、それについて自分と比較して、そう考えたのではない。そのときのぼくの状態から感じたのだ。経過を話さなければ分らないだろう。きょうのことに関係しているのは二人だが、直接感じているのは、広い世界にただ一人だ。
 昨夜、階下の人に北国夕刊からの招待券を貰った。ぼくにとって、招待券は珍しいものだから、一人で行かなければならないと思っていた。ところが、けさになって考えてみると、N
(注 2)もきょうの招待券を持っているように思われた。さっそく一緒に行きたいと思ったが、午前中はいつもどこへも行けない。ようやく十一時頃になって、なすべきことが終わったので、よほど行こうかと思ったが、時間が遅いこと、N が家にいないかもしれないこと、いてもすでに見てきてしまったか、行かないかもしれないこと、などを考え合わせると、行きたくなくなった。
 十二時半頃出かけた。劇場に入って間もなく、その回の上映が終わった。タイプの練習があるので、終わったらすぐ席を立って外へ出た。いや、出ようとしたとき、ふと右の方を見ると N がいる。いま入って来たばかりのようだ。
 なぜか知らないけれども、ぼくは即座に首を左に向けていた
**。そして真っすぐ出てしまった。出てエレベーターの前へ来るなり、「しまった」と思った。まだ、二時三十分。ニュースだけは見ていても遅くならない。N のところへ行って、始まるまでの時間、話し合ったり(話したいことは山ほどあった)、一緒に映画を見たりすればよかった。そんなことをしなくても、「オス!」ぐらい、いいに行けばよかった。いつかも電車の中でそれと同じことをやったのを思い出した。そして、あのときぼくはどうしようと思っただろうか。
Ted による欄外注記
 * 新聞広告と町に出ている広告で見たよ。
 ** だから向性指数が百以下だったことがあるんだ。[引用時の注:「向性指数」とは、中学時代に受けた性格テストの結果を表す指標で、100 以上が外向的、100 以下が内向的という目安だったようだ。]
引用時の注
  1. 1939 年の映画 Five Little Peppers and How They Grew だっただろうか。
  2. ここに私の欄外注記があったが省略する。内容は、ニックネーム Neg 以下、N で始まる私の知る実名を 16 も書いて、終りに疑問符をつけたものである。Sam はこれに対して答えていない。それらの中に該当する名はなかったのだろう。

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