2013年3月20日水曜日

大急ぎで帰宅したのに…


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 7 月 30 日(月)曇り(つづき)

 Jack は寝転んで手紙を読んでいたが、それを持って出て来て、見せてくれた。字は丁寧に書いてあるが、妙な表現や間違いが探そうとしなくても目につく。ピアノの S さんからのもので、東京見物のことが日記風に書いてある。動物園に「足長猿」がいたり、猿の「尼」が赤かったり、「昼弁辨」を食べたり、「不ろう児」がごろごろいたり、後楽園が「聳え」ていたり、上野公園を「県六園」と比較したり、「明日」の何時かに金沢へ帰って来たり、という具合だ。それでも、田舎者(自分でそう書いている)が目を出来るだけキョロつかせていなければならなかった東京の繁華な様子が何となくよく分かる。ぼくは三日から京都と大阪(前者には伯父の家が、後者には伯父の会社がある)を訪れるが、Sam にどんな報告が出来るだろうか。
 上がれといった Jack に時間を聞くと、四時までにまだ一時間ある。彼の部屋へ入ると、Jack は、Tom がけさ来ただの、東急が阪急を二ゲームは引き離しただろうだのと、間もおかないで話し続ける。
 四時十分前! それっ! ぼくは Jack にいいたかったことを唇の内側に残して飛び出した。下駄はガッガッガッと叫んだ。セミの声も砂ぼこりも背中にくっついてしまうかと思われるほど、汗がにじんだ。家の階段を駆け上がると、母は悠然として何か書き物をしている。まだ行かないのか?「ハイホー!」せっかく身体中に汗して、約束に五分遅れただけで帰って来たのに、海岸へ散歩に行こうといった母の同僚の盲学校の先生は、天候が思わしくないので約束を変更したそうだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿