2013年3月16日土曜日

夕闇中の「密議」


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 7 月 28 日(土)晴れ(つづき)

 あるき過ぎて、頭が痛い。母は眼鏡がないといって騒いでいる。ぼくまでが何も手につかない。——大捜索の結果、眼鏡はタンスの中から出て来た。母は落ち着いて新聞など読み始めた。家の中は電気をつけたばかりだ。ぼくは外に憧れた。
 下駄をつっかけて、向かいの家の Sound を呼んだ。弟が取りついで、兄さんは行水しているといった。少し待つと、シャツを着ないままで「何や?」と、家を訪ねられたときの決まり文句で出て来た。門柱の半ば朽ちたところをほじくりながら、「何でもない。話しに来た」と答えた。Sound はシャツを着て出直して来た。休みのことから始めて、お互いの学校のことを話しているところへ、どこかへ行く Dan が自転車で通りかかり、「何を密議しとる?」と、あらゆる話し方を混ぜ合わせたかのような調子でいった。彼らは、明日町内から行く海水浴の時間とバスのことを話した。それから Dan は、写真を当てて入賞したぼくの名が、どこかに出ていたといった。 〈読売新聞社は、ひとの名を無断で掲示するとは、けしからん。〉 Sam や Neg の名を出して弁解しなければならなかった。
 Dan が再びここを通って帰って行ったあとも、Sound とぼくは話し続けた。北斗七星が Sound の家の屋根の上にあって、ヒシャクの水をいれるところのもとの上に当たる一つ
(注 1)(α、β、γ、δ、ε、ζ、η の内のどれだい)がぼんやりしている。
 Sound の話は、「生徒会のクラブと学校のクラブがある」、「アセンブリーは四限で眠い」、「解析は一次関数とグラフから始めて因数分解まで」、「社会は二人の教員に習う」、「実習が面白い」、「三百何番教室から百何番教室へ移動するのが一番大変」、「英語のテキストはハイスクールXXX」、「国語はXXX」、「生徒会のと図書部のと二枚新聞を買わんなん」、「旧式な試験方法、たとえば、産業革命について書け」、「通知表は 1 から 10 の方式」など。(これらの答えが得られるようなたくさんの質問をした経験のないぼくだから、「宮殿」を訪問したときの Sam を思い出して役立てた。)しまいに、われわれは座り込んで話した。ぼくは、「NSMと一緒のホームになった」と、小六のときのわれわれの同級生のことを持ち出した。「拳闘やっとるてな。ごっつい。あいつ付属へ行ってから
(注 2)、がらっと変ったな。道でおうても…。」これは同感だ。しかし、Sound も市工へ行ってから変ったと思う、よい意味で。
引用時の注
  1. 「水をいれるところのもとの上」という表現は、われながら分かりにくい。次に示してあるギリシャ文字中の δ の横に、Sam がつけたのか、私自身があとでつけたのか、二重線がある。δ 星ならば、「水をいれるところと柄の接点」とでも書くべきであろう。
  2. NSM 君が中学生時代には女子師範付属中へ行っていたことを指す。同校には高等部がなかったので、付属中卒業後、私が行っていた地域の高校へ来ていた。

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