2013年6月25日火曜日

ちらっと動いた肌色


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 10 月 17 日(水)晴れ

 社会の時間に隣の Peco が「鞄一杯やさかい、持って行ってくれ」といって、吉川英治の「『佐(すけ)どの』『佐どのうっ』『おおういっ』すさぶ吹雪の白い闇にかたまり合って、にはかに立ち止まった主従七騎の影は、口々でかう呼ばはりながら」という書き出しの本(上巻)を貸してくれた。

 Sam の家から歩いて歩いて「不許葷酒入山門」(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)と彫られた石が前に立っている門(注 1)をくぐる頃には、屋根や樹木に接しているあたりの空は、完全に淡い赤紫色になっていた。
 破れたズックの割れ目からは、足が見えていた…。「昔より賢き人の富めるは稀なり」の例にもれていない。Vicky もやはり奨学生である。…おや、どうしてこんなことを思い出し始めたのだろう。空の色が、社会の時間に床に目を落としたとき、ちらっと動いた肌色を連想させ、また、Sam の家へ行く前に大学前で切れた下駄の緒をいい加減にねじっておいたのがよく持ちこたえたなと、忙しく動かしている自分の足を見たことから、その肌色が足だったことにまで思い及んだのである。[つづく]
引用時の注
  1. 天徳院の山門。当時その山門を入って左へ抜ける道があり、その近くに住んでいた。

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