高校(1 年生)時代の交換日記から
Ted: 1951 年 11 月 4 日(日)晴れ
Sam、二日間にわたる休みなものだから、Crow 先生は金曜日の SH に「休み中は身体に気をつけて」と、冗談のようにいわれたが、Sam はこの二日間をどう過ごしたかね?——「どう過ごしたかね?」ではない! ぼくはきょう紫中での歌の練習に行かなかった。このことについて、Sam はぼくをよく思わなかったに違いない。なぜ行かなかったか? 理由の一つは、そこへ行くためには命ともいうべき身体の部分が痛んでいたこと、もう一つは、それは、すなわち、何かというならば、米選抜軍対全日本の放送を聞きたかったのだ。そして、Twelve がやって来た。もち、ぼくが招待したから。彼の家の第一と第二放送は混信するそうだから。それでも、甲子園球場が雨だったら、来たるべき生物の試験のこと、解析のプリントのこと、月曜の dic のことなどを話すだけで、一時半には帰って貰うかもしれないと、金曜日に断っておいた。
しかし、雨は降らない。ところが、早慶戦の放送がなかなか終わらない。われわれはいくらか退屈した。やっと終わって、米国国歌と君が代の吹奏、試合開始。「二時十二分であります。ピッチャー別所、プレートの真ん中を踏んで…。」少し変だと思ったが、四時十二分前の聞き違いだろうということにして、ぼくは七十円がロハになったスコアブックへ、Twelve に記号を説明しながら、記入し続けた。一回表、ディマジオ兄の二塁打で二点を挙げた米軍に対して、その裏の日本はゼロ。鉛筆を左ページの 2 イニングの下の七番打者のところへ持って行き、● を一つ書くと、「ピッチャーのパーネル、第二球の…」といっている。二回の表、米軍のストリンガーが打者のはずだが、変だぞ、なぁに、アナウンサーの間違いだろう、ぐらいに思っていると、Twelve も「変だ」と注意する。「四回の裏、全日本の攻撃、第四球もボール、別当、再び四球を…。」「録音や」と Twelve。一回裏から四回裏へ、何の断りもなくすっ飛ばされたのだから、キツネにつままれる。「一生懸命に聞いとっても、本当は、もう終わっとるがやろな。だらくさい!」時間のズレは、ぼくにこう叫ばせた。
録音では、臨場感に欠ける。畳に手のひらをついて、ひじをゴツンゴツンと曲げ伸ばししていた Twelve もさぞ、つまらなかったことだろう。五時になり、六回裏、川上がショートフライでスリーアウトになった時、Twelve は帽子を拾って立ち上がってから、またひざまずいて、母に「長い間お邪魔いたしました」といった。歌を歌いに行った方がよかっ——いや「よかったかもしれない」ではない!
Ted: 1951 年 11 月 4 日(日)晴れ
Sam、二日間にわたる休みなものだから、Crow 先生は金曜日の SH に「休み中は身体に気をつけて」と、冗談のようにいわれたが、Sam はこの二日間をどう過ごしたかね?——「どう過ごしたかね?」ではない! ぼくはきょう紫中での歌の練習に行かなかった。このことについて、Sam はぼくをよく思わなかったに違いない。なぜ行かなかったか? 理由の一つは、そこへ行くためには命ともいうべき身体の部分が痛んでいたこと、もう一つは、それは、すなわち、何かというならば、米選抜軍対全日本の放送を聞きたかったのだ。そして、Twelve がやって来た。もち、ぼくが招待したから。彼の家の第一と第二放送は混信するそうだから。それでも、甲子園球場が雨だったら、来たるべき生物の試験のこと、解析のプリントのこと、月曜の dic のことなどを話すだけで、一時半には帰って貰うかもしれないと、金曜日に断っておいた。
しかし、雨は降らない。ところが、早慶戦の放送がなかなか終わらない。われわれはいくらか退屈した。やっと終わって、米国国歌と君が代の吹奏、試合開始。「二時十二分であります。ピッチャー別所、プレートの真ん中を踏んで…。」少し変だと思ったが、四時十二分前の聞き違いだろうということにして、ぼくは七十円がロハになったスコアブックへ、Twelve に記号を説明しながら、記入し続けた。一回表、ディマジオ兄の二塁打で二点を挙げた米軍に対して、その裏の日本はゼロ。鉛筆を左ページの 2 イニングの下の七番打者のところへ持って行き、● を一つ書くと、「ピッチャーのパーネル、第二球の…」といっている。二回の表、米軍のストリンガーが打者のはずだが、変だぞ、なぁに、アナウンサーの間違いだろう、ぐらいに思っていると、Twelve も「変だ」と注意する。「四回の裏、全日本の攻撃、第四球もボール、別当、再び四球を…。」「録音や」と Twelve。一回裏から四回裏へ、何の断りもなくすっ飛ばされたのだから、キツネにつままれる。「一生懸命に聞いとっても、本当は、もう終わっとるがやろな。だらくさい!」時間のズレは、ぼくにこう叫ばせた。
録音では、臨場感に欠ける。畳に手のひらをついて、ひじをゴツンゴツンと曲げ伸ばししていた Twelve もさぞ、つまらなかったことだろう。五時になり、六回裏、川上がショートフライでスリーアウトになった時、Twelve は帽子を拾って立ち上がってから、またひざまずいて、母に「長い間お邪魔いたしました」といった。歌を歌いに行った方がよかっ——いや「よかったかもしれない」ではない!
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